子どもたちの送迎を終え、どこかホッとした雰囲気の「児童発達支援unico春日」の夕暮れ時。柔らかい笑顔で出迎えてくれたのは山内 絢香さん。支援員として入社した山内さんは、今では心理士の専門性を活かし、エンゲージメントグループのマネージャーとして、unico全体の支援の質を高める役割にも力を発揮してくれています。
今でも子どもたちと過ごす支援の時間が何より楽しいという山内さんに、その想いや今後の展望をお聞きしました。

unicoに来る前も、心理士として子どもたちの支援をしていたとお聞きしました。

最初の職場は精神保健分野の県職員として、県立精神科病院の児童病棟でした。精神科で何らかの診断をされたお子さんが入院するところです。その特性と環境がマッチしない子が、自殺衝動があったり他の子を傷つけてしまったり、問題行動が顕著になった場合に、一定期間入院して、カウンセリングを受けたり、一緒に日常生活を送ったりするところです。小学生から高校生まで30人ほど、幅広い年齢の子どもたちが過ごしていました。

病棟や一部の部屋には鍵がかけられていたり、外出には医者の許可が必要だったり。そういう場所の存在を知らなかったので驚きとともに、「ここで私にできることはあるのだろうか…」と、最初は戸惑いもありました。

精神科病棟に入院する子どもたちなので、最初は特別な子ばかりなんだと思っていました。ただ会ってみると、すごく特別に困った子とは全く思いませんでしたし、何より、子どもたちはみんな本当にかわいいんです。「ありのままでいいんだよ」という姿勢で接していると、一緒に笑ったり、好きなことを話してくれたり。でも、その子たちはみんな、社会的に求められる姿にマッチできず、そしてそれを周りに理解されずに苦しんでいました。

「こんなにたくさん子どもたちが居場所がなくて苦しんでいるんだ」
「”ありのままいられる居場所”があれば、こんなに笑顔を見せてくれる」
「そういう居場所がもっとあったらいいのに」
4年間そこで働くうちに、そんなふうに思うようになりました。

山内さんの原点はそこにあるのですね。

「ありのままでいられない苦しさ」は、その後、成人の方の自殺対策や依存症対策の部署に移ってからも、同じように感じていました。そして結婚を機に福岡に移り住むことになったときに、ずっとやりたいと思っていた”ありのままでいられる居場所”を提供することに関わりたい、と職を探し始めました。そこで出会ったのがunicoです。

面接で本部長の濱田さんと話した際に「”障害”は、個人に起因するものではなく、本人と環境とのギャップがあるときに起こるもの」という考え方を聞いて、まさに自分が今まで感じていたことだなって。本人が一番苦しんでつらいはずなのに、本人が悪い子みたいに思われていることに違和感がありました。「なんで本人のせいにされているんだろう?」って。

実際にunicoの教室での実習にも参加したのですが、スタッフの皆さんがそういう考え方を持っているのが、支援の様子を見ていてとても感じられました。他の企業の選考も受けていましたが、その考え方が共通していると実感できたことが、unicoに決めた一番の理由です。

実際に入ってみてどうでしたか?

やりたいこと、大事にしたいことは、どの職場にいるときもブレていないと思うんですが、unicoに来てから、できることの可能性は広がったと思います。

県職員や病院勤務だったので、遊具や外出とか、やってはいけないことが多かったり、できるだけリスク管理してトラブルが起こらないようにしたり、どうしてもスタッフ側の制限が多くありました。例えば子どもたちが喧嘩したとき、unicoでは「まずは子ども同士でうまくやる方法を見つけていくのを一緒に見守りたい」と思いますが、病院ではすぐに看護師が介入して管理する必要があったりして。

unicoでの印象的な思い出として、身辺自立もしているしっかり者の年長の女の子がいるのですが、ひょんなことをきっかけに、その子と近くの公園まで二人で散歩をし始めるようになりました。夕方ちょっと時間があれば散歩の時間をとっていたんですけど、そういう二人きりの時間のときに、その子から「今~~が不安なんだ」とか「~~みたいなことで自分のことがイヤになって落ち込むんだ」とか、そんな話をしてくれるようになって。

いつもはしっかりして見える女の子なのですが、本当はそういう話をする場を求めていたんだなって。そういう話を聞かせてくれたことが嬉しくて。それに「その子のことをわかった気にならず、その子をわかろうとし続けたい」という想いもあったので、小さい子でも、そういう私の姿勢をしっかり受け取ってくれるんだなと、すごく勉強にもなりました。

「わかろうとし続ける」姿勢を大事にされているのですね。

私が心理士をめざした理由にもつながってくるのですが、私、中学生まで学校があんまり好きじゃなかったんです。友達と遊ぶのは楽しいし、学校行事も面白かったけど、先生たち大人に対してどうしても「勝手に決めつけられる」「自分のことをわかってもらえない」という諦めみたいな気持ちがずっとあって。

だからこそ私自身は、他人をわかった気になることはしたくないし、勝手に決めつけるようなことはしたくない。「わかった気にならず、わかろうとし続けたい」と思うようになりました。気づいたら、自然と心理学の道を選んでいました。

大学では臨床心理系のゼミで、実際に子どもたちとかかわったり、セラピーに同席したりしたのですが、そのゼミの先生が「どんなに小さい子でも、子どもを子どもを見なすのではなく、一人の人間として対等に見る」方だったんです。例えば悩んでいる子がいたときに、何か決めつけて教えるんじゃなくて「何が困っているのかな」って隣で一緒に悩んでくれるような先生でした。

子どもたちも「この大人にはちゃんと受け止めてもらえる」ってわかると、遊びの中で自由に表現してくれたり、ストレートに気持ちを出してくれたりするんです。「こんな小さい子でもこんなにいろいろ考えているんだ」ってすごく発見でした。そんな関わりを傍で見ながら「私もそういうふうになりたいな」って。

素敵な先生との出会いがあったのですね。

実際にunicoでも、ちょっとずつですが、その子の自由な表現を感じられる瞬間があります。例えば、やんちゃでよくお友達と喧嘩になっちゃったりもする男の子がいるんですが、ある日、教室の中で「宝探しゲーム」をしようとなりました。お宝は、その子が大好きな恐竜のおもちゃです。

最初は私がお宝を隠す番。その子はすぐにお宝を見つけました。交代してその子が隠す番になり「私は目をつぶるから、お宝を隠してね」と言ったら「僕はお宝を隠さない!」って言うんです。私の目の前にお宝を置くんだと、その子は宣言しました。「だから、絶対見つけてね!」と。

きっと何か意図があるんだろうなと思って、そのまま目をつぶりました。そして目を開けると、やっぱり恐竜のお宝は、私の目の前にあるんです(笑)。そして「あ、見つけたよ!」と私が言うと、その子、めっちゃ喜ぶんですよ。そんな宝探しを何度もやって、私は何度も目の前のお宝を見つけて、そのたびにその子に「見つけたよ」って伝えました。

「先生に見つけてほしかったんだよ」ってその子が言うんです。その子はその大好きな恐竜のおもちゃを、いつも自分の分身みたいに持ち歩いていました。きっと「僕のことを見ていてね」「見つけてね」という、彼なりの自己表現だったのかな、と思います。

「先生はお宝をちゃんと見つけてくれた。見つけてくれるか心配だったけどね」と言う彼は、その遊びをきっかけに、いろいろなことを私に話してくれるようになりました。

これからunicoでやっていきたいことはありますか?

ここまで話した内容にもつながると思うのですが、unicoのスタンス「みんないい」という考え方のベースを、もっともっとunico全体に、そして社会にも浸透させていきたいなって思います。

「みんないい」とは「”ちがい”も”おなじ”も大切にすること」「能力の優劣や行為の善悪で価値が決まるのではなく、その子・その人の存在ありのままを認めるあり方」のことです。「子どもが育つ」と信じて、子どもたちと対等に関わろう、という、unicoの支援のスタンス、あり方として大切にしています。

そのためには、きっと「みんないい」のあり方の良さ、居心地の良さを、自ら体感してもらうことが最初のきっかけになるのかなと。利用者やスタッフのエンゲージメントを高めることを目指す「エンゲージメントグループ」に今私はいますので、その役割として、ありのまま認め合うことの良さを実感してもらえる、社内コミュニケーションのとりくみも、実はすでにスタートさせています。

児童分野を検討中の心理士の方にメッセージをお願いします。

たぶん心理士の仕事って、個別でカウンセリングしたり、セラピーをしたり、一般的には一対一の個別で支援するイメージが強いと思うんです。だから、私もそうだったのですが「集団療育の中で、心理士の専門性を活かせるのかな?」と思う人は多いんじゃないかと思います。

でも、実際にunicoで支援してみて、今は逆に「集団療育だからこそ、心理士の専門性がたくさん活きる」と感じています。unicoメソッドの「ポカポカ」に「傾聴」というスキルもありますが、日常生活や普段の社会に近い集団で過ごすからこそ、その子一人一人に向き合って、気持ちを受け取ることが大切です。心理士だからこそ、そこに率先して実践することもできます。

そしてそういう集団の中でも一人一人をわかろうとし続ける姿勢は、先ほどもお話した「みんないい」のスタンスにもつながっていきます。心理士として子どもたちにかかわる仕事を考えている方がいらしたら、ぜひ一緒に、そういう支援や文化をつくっていく仲間になっていただけたら嬉しいです。

▼プロフィール

山内 絢香(やまうち あやか) 。臨床心理士・公認心理師。
2021年10月入社。最初は「児童発達支援unico春日」に配属。翌年4月よりエンゲージメントグループに異動し、専門性を活かしてunicoメソッドの開発やアップデートを担当。現在は同グループのマネージャーとしても活躍中。
好きなものは読書や映画鑑賞、古本屋の開拓。

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